親の介護にかかる費用は500万円!介護離職の前に公的介護保険の利用を考えて
親の介護が必要になったら、費用がどのくらいかかるかご存知ですか?
介護はまだ先の問題と思っていても、高齢になると突然、転倒したり、骨折したり、あるいは脳卒中などの脳血管疾患や認知症になる可能性が高まります。
介護はある日突然やってくるとも言われ、身近なリスクの一つです。
また近年、家族の介護のために会社を辞める(=離職)する「介護離職」が社会問題となっています。
介護と仕事の両立が厳しいなどの理由もあると思いますが、介護にかかる費用について知ると、離職によって収入源を失うことが、いかに大きなリスクかわかるでしょう。
今回は、介護にかかる費用の中でも、在宅(自宅)で介護サービスを利用する場合について解説します。
目次
親1人に介護費用は500万円!
生命保険文化センターが平成30年度におこなった「生命保険に関する全国実態調査」によると、介護に要した費用(公的介護保険サービスの自己負担費用を含む)は
- 住宅改修費、介護用ベッド購入など「一時的にかかる費用」は平均69万円
- ヘルパーによる訪問介護やデイサービス、ショートステイ、老人ホームなどの施設利用にかかる「月々の費用」は平均7.8万円
といわれています。
また同調査では、介護期間について「4〜10年未満が28.3パーセント」ともっとも高く、平均54.5ヶ月(4年7ヶ月)。
1人あたりの費用総額は約500万円という計算です。
計算式:69万円(一時的費用)+7.8万円(月々の費用)×54.5ヶ月=494万円
もちろん、費用は要介護度や利用する介護サービスや施設によって異なりますが、まとまったお金が必要になることがわかると思います。
介護と仕事との両立が難しいと感じ、会社を辞めることを考えている方もいると思いますが、ご自身で介護するにしても、公的介護保険を利用するとしても、介護にはお金はかかるということを知っておくとよいでしょう。
在宅介護の費用は平均4.6万円
介護サービスや施設の利用でどのくらい費用がかかるでしょうか。
前述の生命文化センターの調査によると、
介護を在宅(自宅)で介護サービスを受けた場合は平均月額4.6万円
施設で受けた場合は平均11.8万円
と報告されています。
介護費用は、介護サービスを利用する本人(親)の年金や預貯金でまかなうと考えている方もいると思いますが、生活費や医療費なども年金から引かれるということも忘れてはいけません。
介護サービス料よりもおむつ代のほうが高い
ここからは在宅介護にかかる費用について解説します。
在宅介護にかかる費用は、ヘルパーによる訪問介護やデイサービスなど介護保険による介護サービスにかかる費用「介護サービス料」と、おむつ代や医療費、介護リフォームなどにかかる「介護サービス以外の費用」にわけられます。
家計経済研究所が2016年に発表した「在宅介護のお金と負担」によると、在宅介護にかかる費用は月々で平均5万円。
内訳は、「介護サービス利用料」は1万6,000円、「介護サービス以外の費用」は3万4,000円、となっています。
この結果を見ても、医療費や食事代のほか、おむつ・パッドなどの介護用品にかかる費用のほうが、利用者にとって負担が大きいことがわかります。
おむつなどの介護用品は、自治体によって費用の助成などがありますので、区役所や市役所の「介護保険課」、「高齢者福祉課」などに問い合わせみてもよいと思います。
また、大人用の紙おむつ、パッド類は、医療費控除の対象となります。
控除を利用するためには、医師がおむつの使用が必要であると認めた「おむつ使用証明書」を発行してもらうなどの条件がありますので、主治医に相談してください。
確定申告の際、この「おむつ使用証明書」を添付すれば、ドラッグストアなどで購入したおむつやパッド代も控除の対象ますが、紙おむつ購入時に「おむつ使用者の氏名」が書かれてある領収書が必要になります。
レシートでも氏名が明記されていないと領収書として使えない場合もありますのでご注意ください。
自己負担は「1割」と思っていたら間違い!?
次に、「介護サービス利用料」について解説します。
公的介護保険は、第1号被保険者(65歳以上)であれば、要介護状態になった原因を問わずサービスを利用できます。
利用料は、実際にかかったサービス料の1〜3割です。
ほとんどの利用者は1割にあてはまりますが、現役並みの所得のある高齢者は、2割、もしくは3割負担となります。
「介護保険を使えば、費用の1割でサービスが受けられる」と思い込んでいたら間違いです。
それでは、自己負担割合はどのように決まるのでしょうか。
自己負担割合は、介護サービスを受ける本人の「所得」や、同一世帯における65歳以上の「人数」、「年金収入額」などに応じて決定します。
1. 3割負担
本⼈(65歳以上で市⺠税が課税されている⼈)の合計所得⾦額が220万円以上
本⼈を含む同⼀世帯の65歳以上の⼈の「年⾦収⼊とその他の合計所得⾦額」が、単⾝世帯で340万円以上、2⼈以上の世帯で合計463万円以上
2. 2割負担
本⼈(65歳以上で市⺠税が課税されている⼈)の合計所得⾦額が160万円以上220万円未満
本⼈を含む同⼀世帯の65歳以上の⼈の「年⾦収⼊とその他の合計所得⾦額」が、単⾝世帯で280万円以上、2⼈以上の世帯で合計346万円以上
3. 1割負担
上記の3割負担と2割負担の基準にあてはまらない⼈
実は、私自身、ヘルパーを利用者宅に派遣する訪問介護の事業所の経営をしています。利用者70人のうち、3割負担は現在1人。
その3割負担の方は、家族が経営する企業の役員を務め、役員報酬などの収入があります。
要介護3で認知症も発症していますが、自宅で一人暮らしをしながら、訪問介護やデイサービスなどの在宅介護サービスを利用しています。
ホームヘルパーを派遣しているうちの事業所への支払いは、月々2万〜3万円程度です。
特別養護老人ホーム、グループホームなどの施設による介護サービス料も所得に応じて1〜3割と負担割合が異なります。
保険給付には限度額がある
公的介護保険からの給付額には、要介護度に応じて1ヶ月あたりのサービスの支給限度額が設けられています。
限度額の範囲内でサービスを利用するときの負担は1〜3割ですが、上限を超えてサービスを利用した分は全額自己負担になります。
在宅(自宅)でのサービスを利用する場合の支給限度額の目安(1ヶ月あたり)
要介護度 | 支給限度額 | 1割負担の額 | 2割負担の額 | 3割負担の額 |
要支援1 | 50,320円 | 5,032円 | 10,064円 | 15,096円 |
要支援2 | 105,310円 | 10,531円 | 21,062円 | 31,593円 |
要介護1 | 167,650円 | 16,765円 | 33,530円 | 50,295円 |
要介護2 | 197,050円 | 19,705円 | 39,410円 | 59,115円 |
要介護3 | 270,480円 | 27,048円 | 54,096円 | 81,144円 |
要介護4 | 309,380円 | 30,938円 | 61,876円 | 92,814円 |
要介護5 | 362,170円 | 36,217円 | 72,434円 | 108,651円 |
例)要介護2で在宅サービスを月に20万円利用した場合(自己負担1割)
介護保険給付(1割)は17万7,345円、自己負担額1万6,765円となり、限度額を超えた分5,890円は全額自己負担。
自己負担の合計額は、月々約2万円です。
計算:16,765円(1割の自己負担)+5,890円(全額自己負担)=22,655円(自己負担計)
重い負担は軽減制度を利用
ここまで読んできて、自己負担額が高額になった場合を心配する方もいると思いますが、次のような2つの軽減制度があります。
1. 「高額介護サービス費」
1ヶ月の介護サービスの自己負担の合計額が一定額を超えると、超えた金額が市町村から払い戻されます。同じ世帯に複数のサービス利用者がいる場合には、世帯で合算できます。
もっとも所得区分が高い、「課税所得690万円以上(年収約1,160万円以上)」は、限度額14万100円(世帯)。
課税所得380万円未満(年収770万円未満)は、限度額4万4,000円(世帯)など。
ただし、この制度の対象とならないものもありますので申請の際に気をつけましょう。
〈高額介護サービス費の対象とならないもの〉
- 福祉用具購入費や住宅改修費の1〜3割負担分
- 介護保険の給付対象外の利用者負担分
- 支給限度額を超え、全額自己負担となる利用者負担分
2. 「高額医療・高額介護合算療養費制度」
毎年8月から翌年7月までの1年間の医療保険と介護保険の自己負担額を合算して、一定の限度額を超えた分が払い戻されます。限度額は所得区分に応じて決められています。
自己負担限度額を超えた金額は、医療保険、介護保険の比率に応じて両方の制度から給付されます。
公的医療保険には「高額療養費制度」、介護保険には「高額介護サービス費」があり、1ヶ月ごとの医療費、介護サービスの自己負担を軽減できますが、それだけではまだ負担が残るという方は、「高額医療・高額介護合算療養費制度」も利用するとよいでしょう。
まとめ
初めて介護サービスを受けるという人は、まず、在宅でおこなう介護(訪問介護・通所介護)を検討する方が多いでしょう。
突然、脳卒中や脳梗塞などの病気を発症したケースを除けば、高齢となり生活に多少の不便はあっても、住み慣れた自宅で暮らしたいという方がほとんどです。
今回、在宅介護サービスにかかる費用が平均5万円と聞いて、高いと感じるか、安いと感じるかは人それぞれだと思います。
家にホームヘルパーが来てくれて、掃除や調理の介助をしてもらったり、デイサービスでレクレーションを楽しみながら入浴介助をしてもらったりできるのであれば、ぜひ、親のために利用したいと思う人。
また、親と同居している方は、できるだけご自身で介護したいと考える方といると思います。
いずれにしても、ご自身の負担が重くなったと感じたときは、国の公的介護保険や市区町村の補助などを活用することをおすすめします。
介護は誰にでも起こり得る身近なリスクです。
いざというときに慌てないための経済的な備えをしておくことが大切でしょう。
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服部広子
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